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カテキンの医療効果
再生医療のための生体材料
歯根膜と血管の再生・増殖コントロール

『the Quintessence Vol.20 No.2/2001-245』

玄 丞烋・(京都大学再生医科学研究所)の論文より要旨抜粋

■注目を集める再生療法
 われわれ人類は新たな新世紀、21世紀を希望と不安のなかで迎えた。21世紀の生命科学は、この先2〜30年の間で飛躍的に進歩し、新たな医療である再生医療が確立されるであろう。再生医療とは、ヒトや家畜の細胞を使ってヒトの組織や臓器を作りだし、損なわれたヒト組織や臓器の再生を目指す医療である。 近年、この再生医療の研究開発が急速に熱を帯びてきているが、これはあらゆる生体組織のもとになるES細胞(胚性幹細胞)やEG細胞(胚性生殖細胞)などの「万能細胞」をヒトや動物の受精卵から取りだして育てることが可能になってきたためである。この再生医療が実現することになれば、不治の病や事故により臓器移植しか蘇生できる手立てがない重篤な患者を救うことができるため、遺伝子を手がかりにした新薬開発と並び、大きな市場を開く可能性を秘めている。
 さて、この再生医療には高度な知識と技術および時間を要するが、その初期段階として細胞工学や組織工学が再生医療の発展にとって極めて重要である。
 そこで、ここでは生体内分解吸収性の生体材料や、生理活性材料を用いた組織再生医療研究の現状と未来について、主として筆者らの研究の一部を紹介する。


■動物細胞の増殖コントロール
《--前略--》 ここでは、その研究の一部を紹介する。
 従来、細胞周期同調剤としてヒドロキシウレアやチミジンなどが使用されてきているが、これらはDNA合成阻害や細胞分裂阻害剤であるため、毒性がある。また、細胞周期調節剤としてトリコスタチン(※7)が知られているが、この物質も細胞を安全に増殖停止させるものの、それを解除した後の細胞が正常分裂しなくなるとされている。これらに対して、われわれは最近細胞増殖を正常に制御できる生理活性物質を発見した。

 それは、緑茶から抽出したポリフェノールである。われわれは、近年機能性食品として話題になっているポリフェノールに着目した。
 緑茶ポリフェノールは抗酸化剤の一つであり、他の抗酸化剤としてビタミンE、ビタミンC、スーパーオキシドディスムターゼ(SOD)やグルタチオンなどが代表的であるが、緑茶ポリフェノールはこれら抗酸化剤にはない次のような生理活性機能が知られている。

1.抗齲蝕効果、虫歯菌増殖抑制
2.腸内フローラ改善効果
3.大腸発ガン抑制作用
4.腎不全(尿毒症)改善作用


図6 緑茶ポリフェノール中のカテキンの科学構造

 ポリフェノールは緑茶以外にも、紅茶やウーロン茶、さらに赤ワインにも豊富に含まれており、図6に示されているように主成分はエピガロカテキンガレート(EGCG)を主体とするカテキン類であり、これらのカテキンのなかでEGCGが最も抗酸化活性が高く、最近の研究で癌細胞の増殖が抑制されることが、『Nature』に掲載され大きな注目を浴びた。

 筆者らは、この緑茶ポリフェノールが癌細胞の増殖を抑制するのなら、一般の正常細胞にはどのような影響を及ぼすのか? という素朴な疑問から、まず、ラットの線維芽細胞について検討した。
 ラット線維芽細胞L−929をEMEM(カナマイシン60mg/l含有)と10%ウシ胎児血清中で培養した。細胞増殖テストを1.76×105cell/mlの細胞密度で行い、コントロールとして血清培養のみ、そしてポリフェノール(500μg/ml濃度)を、他の培養系に添加した。図7に示すように、ポリフェノール未添加系では細胞増殖は急激で4日後には1.2×106cell/mlに達しているが、ポリフェノール添加系では約1週間、まったく増殖が認められず、さらにポリフェノールを除去すると再び増殖を開始することがわかった。
 また、線維芽細胞以外にブタの肝細胞でも、同様な現象を確認した。


■歯根膜の長期保存
 近年、自家歯牙移植、再植における歯根膜の保存に関する研究が重要なテーマとして取り上げられている。歯根膜保存条件により歯根膜細胞の生物学的活性が関係し、歯の移植、再植の予後が左右される。
柳沢ら(※20)は、種々の保存液を用い、冷蔵保存(4℃)、氷温保存(−2℃)、および凍結保存(−80℃)の保存状態を変え、歯根膜細胞の生物学的活性を詳しく調べた結果、従来は凍結保存でも2週間という期間に対して、UW液(du Pont,USA)を用いた氷温保存が最もよくて、21日間の保存が可能になったことを報告している。
 そこで、われわれは、前述のポリフェノールを用いた細胞、組織の新しい保存法を歯根膜の長期保存に適用した(※21)。ここでは、その結果の一部を紹介する。

 被験歯は生後2〜3週齢の雄性モルモット体重200g〜400g24匹を用いた。
 歯根膜を損傷しないように注意して歯を抜去した。抜歯と同時に抜髄も行った。その後、直ちに5%抗生剤(Antimyotic)を含むPBSに入れ、2時間経過後、それぞれ250、500および1000μg/mlのポリフェノール溶液に24時間浸漬処理して、その後DMEM培地中で保存した。
対照群は生理食塩水とDMEM培地を用い、保存温度は4℃および37℃で行った。また、保存期間は5、7、14、21、28および42日間とした。各保存期間後、DMEM培地にて、37℃、5% CO2下でOutgrowth法にて培養することにより、歯根膜細胞の出現を観察した。
 ポリフェノール未処理の歯根膜は、生理食塩水とDMEM中で4週間保存した場合、保存温度4℃および37℃とも歯根膜の形状が崩れ変形した。
 
図20 ポリフェノールで24時間処理し、37℃にて4週間保存したモルモット歯根膜の形態。
A:生理食塩水、B:DMEM、C:ポリフェノール
ポリフェノール未処理の歯根膜は形状が崩れ変形したが、処理した歯根膜では抜去直後の形状と力学的性質を保っていた。
図21 ポリフェノールで24時間処理し、37℃にて4週間保存したモルモット歯根膜から出現した歯根膜細胞。

  一方、ポリフェノールで24時間処理した歯根膜は抜去直後の形状と力学的性質を4週間後でも保っていた。図20にその形態観察を示す。
 保存歯根膜の切片を37℃で培養したところ、ポリフェノール未処理の場合、生理食塩水での保存では、短時間(5時間)の保存でも歯根膜細胞の出現が観察されなかったが、DMEM中の保存ではポリフェノール処理した場合、37℃の保存温度においても4週間の保存後、図21に示されるように歯根膜細胞の出現が観察された。
 これらのことから、抜歯した歯根膜をポリフェノールで処理することにより、長時間(1か月以上)の保存が可能となった。


■今後への期待
 これまでの生体組織の保存法は、−196℃の極低温の凍結保存が主流であり、以上で示したように未凍結状態で1〜3か月という長期間保存に関する研究はまったくなく、常識では考えられなかった。ここで紹介した以外の生体組織として家兎角膜、ラット座骨神経および家兎気管などを未凍結状態での長期保存にも成功している。 臓器移植の外科的技術が著しく向上した現在、臓器移植手術の成否は術後の移植片拒絶反応をいかにして抑制できるかにかかっている。従来より免疫応答の抑制に使用されてきた化合物は、(1)特定の免疫細胞を攻撃してかかる細胞を免疫系から除外するか、あるいは(2)免疫細胞がサイトカインに応答する能力を阻害することによって、免疫応答に関わる細胞数を減少させるという作用機作を有するものである。
このように従来の免疫抑制剤は、生体が移植片を異物として認識し、それを排除するために惹起される一連の免疫反応を低下させるために投与されるため、重篤な副作用が生じてくる。
 しかし、本研究の免疫抑制作用機作は、従来の免疫抑制剤とはまったく逆の発想によるものであり、移植片をポリフェノールで処理することにより、移植片の細胞のレセプターにポリフェノールがバイディングされ、生体の白血球と移植片の血管内皮細胞などとの細胞接着を抑制することにより、生体が移植片を異物として認識されず、免疫拒絶反応が生じなくなるという、まったく新しい概念の免疫抑制法となるため、今後の進展が大いに期待できる。


参考文献
※7. M Yoshida, S Horinouchi, and T Beppu:Trichostation A and trapoxin : novel chemical probes for the role of histone acetylation in chromatin structure and function, BioEssays, 17, 423-430, 1995.
※15. S-H Hyon and D-H Kim : Proferation Control of Cells and Tissue Preservation, Proceedings of International Symposium on Bioma-terials and Drug Delivery Systems. 21, 2000.
※16. D-H Kim, S-H Hyon. W Chi,K Inoue. and S Tsutsumi : Long-term preservation of rat's abdominal aorta at the living body tempera-ture and those isografts, Submitted to transplantation.
※20. 柳沢 武:移植・再植歯の保存方法に関する研究、補綴誌、42、932−944、1998.
※21. 玄 丞烋、彭 春岩、松村和明、南部敏之、堤 定美:歯根膜細胞の増殖コントロール、第36回日本歯科理工学会 2000


カテキンの医療効果
この論文からも、歯科医療が大きく変わることがわかります。

一例)脱臼歯の再植
 転んだりして、前歯に強い外傷を受けると、根ごと歯が抜けてしまうことがたまにあります。その場合すぐ抜けた歯を持ってきて頂ければ、植え直してほとんど元通りにすることもできます。

  この治療方法を“再植”といい、インプラントのように人工臓器を“移植”する治療よりも優れていることがあります。ただし、抜けてからすぐ再植しなければ、根の細胞、つまり歯根膜が死んでしまうので成功しませんでした。
 しかし、この論文によれば、カテキンの力で抜けた歯の根でも4週間もの間生かしつづけることができるわけです。
従って、今までの注意とは変わってきます。従来は、抜けた歯を舌の下か、牛乳に入れて、できるだけ早くに歯科医院に行かなければなりませんでした。
 これからは慌てることなく、4度〜37度のお茶に入れて、24時間くらいの内に運べばよくなりました。
 そのときは、出したお茶よりも、お茶ガラのほうに3倍も多くカテキンが含まれていますから、お茶の葉ごと利用すると良いでしょう。しかし、抜けた歯や、口の中の抜けた後を、4週間も放っておくことはとても良くありません。